イラクの選挙に寄せて

凡その政治や社会に関心があってちょっとだけ賢い人は民主主義なんてモノの限界、或いはまどろっこしさを感じているに違いない。
民主主義とは民衆が思考し判断する政治手法である。民衆は思考も判断もし得ないものと捉えればそこには不可避な限界がある。ねばり強く民衆の知的水準を上げていけば民主主義が拓けるはずだと捉えれば、今はそれは実現できていない(少なくともおれはそうだと思う)のだ。これから先も果てしない努力が必要、即ちまどろっこしいって事になる。

ただ、民主主義に取って代わる社会体制が築けていないので取り敢えず民主主義を支持せざるを得ない、今はそんな状況であると見ている。

んで、イラクの事。
横紙を破るようなアメリカの軍事介入によって彼の地のバランスが崩された。アメリカも(決して口にはしないが)自らの過ちに気付き始めている。早いところ平定して軍事力投入のコストを削減しなくてはならない。そんな利害関係に基づきイラクで選挙が実施された。アメリカの介入も暴挙ならこのタイミングで選挙を行うのも同じくらい暴挙だと感じる。では、どうすればいいのか。その対案は見つかりそうにもない。

選挙は時期尚早と見る向きもあるだろうけど。じゃあ、もっと後だったら状況は良くなるのかといえばそれは誰も判らないとしか言いようがない。じゃあ、今の時期に選挙を行って事態は好転するのか。色々なアナリストの意見をweb上で見てみたけどそれも判らないってのが大方のようだ。

それでも選挙をすれば民主主義。民主主義であれば国際的、最大公約数的な承認を得る事が出来る。選挙をやらずに事態の収束がなければ事実上の為政者であるアメリカにさらなる非難が集中する。曲がりなりにも選挙を行ってしまえばその責任はアメリカの手を離れる事になる。そんな狙いがあるのかどうか判らないけどそんな機能はあるのだろう。

今回、圧勝するであろうシーア派は本来のイスラーム主義を緩和させるために宗教学者を中枢に入れない決定を下したらしい。*1スンニ派はスンニ・トライアングルと言われている地域の治安が悪く選挙にすらいけない状態。人口比ではスンニ派が多いのでシーア派が圧勝。もう一方のクルド勢力もそれを追認する構えっぽい。なのでシーア派の一人勝ち。元々、シーア派が多いのだからこの結果は見えていたけど状況はそれに対するさらなる追い風となっている。

最悪なシナリオを考えてみる。
スンニ派からは既に選挙の無効性を主張する動きが始まっている。表に出ている連中だけではなく地下に潜っているバースの残党もそう思っているだろうから、そこからの「テロ」圧力は強くなるのは想像に難くない。さらにシーア派の内部分裂の可能性は無いのだろうか。シーア派内部のイスラーム原理主義的な層が反発、分離する事は考えられないだろうか。そうなると、新政権は求心力を失う。その間隙を突いてクルド勢力が独立運動を始める..。

悲観的すぎるかも知れないがそうなる可能性はあると思う。

アメリカの軍事介入から始まった混乱は一応の節目を迎えた。人知を尽くして事態が収斂する事を望みながら見ていくしかない。楽観的に考えても、冒頭の「民主主義の限界、或いはまどろっこしさ」に照らし合わせればイラクの民主主義は体裁を整えただけで実質的なモノは何ら伴っていない。これから先も困難な道が続くのだ。

*1:アメリカとシーア派のトップで宗教色排除について何らかの協定が行われていたに違いあるまい。アメリカにとってはシーア派が政権を握ってもコントローラブルなそれにならなくてはならないから。